研究紹介

排ガス浄化触媒におけるセリウムの有効利用

世界的な資源枯渇と偏在に対してはその対策として代替低減技術の蓄積とその有効利用のための基礎研究が重要です。自動車排気処理技術のかなめとして、白金族と希土類(レアアース)は重要な元素であり、元素戦略上、産業と環境が重要にむすびつき、その基礎学理・学術が活かせる分野となっています。当研究室では、セリウムやレアアースの有効利用の観点から、特異構造(コアシェル構造)をもつ助触媒ナノ粒子材を開発し、レアアース資源を有効利用できる自動車排ガス処理触媒に関する研究を行っています。

触媒ナノ粒子の作製と固定化による高活性化

ナノ粒子はふつう低温で作製してそのまま利用しますが、高温ガス反応用触媒や耐熱セラミックスとしては、高温で焼成して安定化する必要があります。当研究室では、酸化セリウムナノ粒子を1000℃でも10 nm程度に安定化きるようにして、高温ガスにも高活性な状態を保持する技術の基礎研究を行っています。このようなナノ粒子/基板結晶の相互作用を活かした触媒材料が知財化されあらたな開発へと展開しています。

触媒の白金族低減化の研究

世界で産出する白金族元素の4分の3が、自動車エンジンの排気処理に使われています。ちなみに、エンジン代替候補の燃料電池に代わると、使用触媒の白金量が多すぎて大量生産できないといわれています。環境保全でもっとも重要とされる自動車の環境対策技術ですが、産業の影響の大きさから国際的な戦略競争ともいえる状況にいたっています。エネルギー分散利用によるリスク低減のために有効な小型エンジン技術では、その排気処理に未だ課題があり完全でない部分があります。解決困難な技術(法定規制値をクリアしているはずなのに、世界の大メーカが次々と「不正」してしまう)のため、環境性能向上には白金やパラジウム、ロジウムといった白金族元素を大量に使用しています。これらの使用量を低減して、かつ環境浄化技術を向上させるという、多くの方が逃げ出してしまう課題に取り組んでします。

環境保全用の触媒セラミックスの開発

環境保全技術は総合工学でありナノ粒子1つを研究していても実現しません。論文誌掲載活動を生業とする集団、そのテーマの活動規模の根拠となっている論文のインパクトファクター競争(ファイアーベント流の)は、ことにその圏外の人々の幸せに必ずしもつながっていないかもしれないといったことを感じたこともありました。当研究室では、環境保全による産業化を目指して、地元の企業と環境セラミックス(触媒装置)の開発を行いました。低価格のセラミックスハニカムの一部市販化、触媒セラミックス原料の試作品提供、さらに安全低廉な触媒材料を組み合わせた揮発性有機化合物(VOC)処理装置を開発(試作)しました。量産実用化の壁は厚いというのが実感です。

 

計算機実験によるディーゼルパティキュレート浄化フィルターの設計

中身が見えない触媒の現象をとらえる方法の一つとして計算機を使った現象解明があります。第一原理計算、分子動力学法など既存のソフトウエアを用いるほか、独自の開発による触媒設計シミュレーションが、部品設計に重要な役割を果たすようになってきています。この分野での先進的な研究を新スタッフとともに進めてきています。

自動車排ガス処理における高い酸素貯蔵能-セリアジルコニア触媒-

1987年に、CeO2-ZrO2系の高い酸素貯蔵能と高耐熱化現象を見つけその材料を開発しました。実用化後、この材料設計の考え方や材料は現在広く使われていて、エンジン排気浄化技術に不可欠な要素(OSC:oxygen storage capacity)として定着しています。  
 自動車触媒における浄化性能の実際的な制御方法では、エンジンの作動条件によって変動する空燃比(A/F)を一定の狭い幅に抑えることに、共通の特徴がある。酸素センサーによりA/Fを保ち最適の燃焼条件と排ガス浄化率が高く保たれる反応条件をつくりだしている。排ガスに含まれる微量の有害ガスは実際には担体上の触媒貴金属や助触媒酸化物上に吸着し、その上で基質間の触媒反応を起こすことによって浄化される。これら一連の反応過程の最適な進行には、かなりミクロな空間で最適なガス組成が維持されなければならない。触媒自体には100%浄化率が要求され、A/F値のマクロ制御だけでは十分に浄化触媒性能を発揮させることができない。そのため、触媒層自身が作動するミクロ空間で、A/Fに相当する雰囲気を制御するような機能が求められる。このような機能を達成しているのが、自動車触媒の酸素貯蔵能(oxygen storage capacity:OSC)と呼ばれる作用である。 注)したがって、一定のA/F値(理論空燃比からずれた)で保ち浄化率を測定して評価するようなことは実際あまり意味をなさないし、また酸素貯蔵放出現象に時間がかかるようだと、浄化触媒のOSC応用の対象にならない。
 現在では、OSCはエンジン排気処理における設計概念の1つであり、それをかなりの自由度で可能にしているのがセリアジルコニア系OSC材料の技術である。3成分のガス(CO、NO、HC)を浄化する時、OSC材なしではガス組成変動によって浄化率が低下するが、セリアジルコニアを加えた貴金属触媒の浄化率ではガス組成変動条件下でも高い浄化率を維持する。つまり、セリウム系助触媒はそのOSC作用によって、酸素センサーで制御できないような排ガス変動下でも活性を保持する機能を自動車触媒にもたらすことができる。